2011年2月16日水曜日

ウォールストリートのデッドエンド

Wall Street’s Dead End
By Felix Salmon
http://www.nytimes.com/2011/02/14/opinion/14Salmon.html?ref=opinion
The stock market has been big news in recent days. Last week’s report that Deutsce Borse, a giant German exchange, intends to buy the New York Stock Exchange, creating a company worth some $24 billion, arrived shortly after the Dow broke the 12,000-point barrier for the first time since before the financial crisis.

These developments drew headlines because they seemed to exemplify significant trends in the American economy. But look at America’s stock exchange more closely, and there’s less to them than meets the eyes. In truth, the stock market is becoming increasingly irrelevant—a trend that threatens the core principles of American capitalism.
証券取引所同士の合併というような景気のいい話の影で、ニューヨーク証券取引所の状況をじっくりと見ると、実は、株式市場が次第に重要性を失いつつあるという、アメリカ資本主義の根幹を揺るがすようなことが生じているのがわかる。

These days a healthy stock market doesn’t mean a healthy economy, as a glance at the high unemployment rate or the low labor market participation rate will show.
最近では株式市場が健全であるということが、経済の健全さを必ずしも意味しないのである。株価が上がっても、失業率は高いし、労働分配率も低いというようなことが起こっている。

The Tea Party is right about one thing; What’s good for Wall Street isn’t necessarily good for Main Street.
ティーパーティが言っていることで一つのことは正しい。ウォールストリートにとって良いことは必ずしもメインストリートにとって良いとは限らない。

And the Germans aren’t buying the New York Stock Exchange for its commoditized, highly competitive and ultra-low-margin stock business, but rather for its lucrative derivative operations.

そしてドイツ人がNYSEのコモディティー化した、低マージンの株式ビジネスを買いたいのではなく、魅力的なデリバティブ事業が欲しいのである。

The stock market is still huge, of course; the companies listed on American exchanges are valued at more than $17 trillion, and they’re not going to disappear in the foreseeable future.
当然、株式市場はいまだに巨大である。アメリカの証券取引所に上場している株式時価総額は17兆ドル以上である。ここしばらくの間消滅することはない。

But the glory days of publicly traded companies dominating the American business landscape may be over.
しかし上場企業がアメリカ産業を支配する栄光の日々は終わるかも知れない。

The number of companies listed on the major domestic exchanges peaked in 1997 at more than 7,000, and it has been falling ever since.
主要国内取引所に上場している会社数は、1997年に7000以上になったところでピークとなり、その後減り続けている。

It’s now down to about 4,000 companies, and given its steep downward trend will surely continue to shrink.
現在の上場会社数は4000件。急減トレンドを前提にすると、さらにこの数は減ると思われる。

Nor are the remaining stocks an obvious proxy for the health of the American economy. Innovative American companies like Apple and Google may be worth hundreds of billions of dollars, but most of them don’t pay dividends or employ many Americans, and their shares are essentially speculative investments for people making a bet on how we’re going to live in the future.
残っている上場株式も、アメリカ経済の健全性のための明らかな証拠とはいえない。アップルやグーグルのような革新的米国企業は数千億ドルの価値があるかもしれないが、こういった企業のほとんどが配当も払っていないし、多くの米国人を雇用しているわけでもない。こういった株式は将来、我々がどのように生活していくのかについての投機を行うかなり投機的投資なのである。

Put another way, as the number of initial public offerings steadily declines, the stock market is becoming little more than a place for speculators and algorithms to compete over who can trade his way to the most money.
IPO数が着実に低下する中で、株式市場は投機家とアルゴリズムを使った取引を競う人々だけのものになってしまう。

What the market is not doing so well is its core public function: allocating capital efficiently.
市場がうまくできていないのは、そのコアとなる公的な機能である。すなわち資本を効率的に配分することである。

Apple, for instance, is hugely profitable and sits on an enormous pile of cash; it is thus very unlikely to use its highly rated stock to pay for an acquisitions.
例えば、アップルは見事な収益力と巨額の現金を持っている。その意味では、高く格付けされている株式を買収に使う可能性は低い。

It hasn’t used the stock market to raise money since 1981, and there’s a good bet it never will again.
1981年から株式市場で資金調達を行っていない。そしてグーグルが今後、株式による市場調達を行う可能性もない。

Meanwhile, the companies in which people most want to invest, technology stars like Facebook and Twitter, are managing to avoid the public markets entirely by raising hundreds of millions or even billions of dollars privately. You and I can’t buy into these companies; only very select institutions and well-connected individuals can. And companies prefer it that way.
一方で、人々が一番投資したいと思っている、フェイスブックやツイッターのようなテクノロジー企業は私募を使って、数億ドル、数十億ドルの調達し、公開市場を一切使っていない。普通の投資家はこういった株式に投資できない。選ばれた機関投資家かコネのある個人だけが投資できるのである。これらの企業はこの方法を選好している。

A private company’s stock isn’t affected by the unpredictable waves of the stock market as a whole. Its chief executive can concentrate on running the company rather than answering endless questions from investors, analysts and the press.
未公開企業の株式は株式市場全体の予測不能な波の影響は受けない。CEOは、投資家、アナリストやマスコミからの際限のない質問に答えることではなく、会社を経営することに集中することができるのである。

There’s much less pressure to meet quarterly earnings targets. When the stock does trade the deals can be negotiated quietly, in private markets, rather than fall victim to short-term speculation from the high-frequency traders who populate public markets. And companies love how private markets allow them to avoid much of the regulatory
burden of being public.
高い頻度で売買を繰り返す投資家の短期的投資の犠牲にあることなく、公開企業の規制上の負担も回避するには未公開企業である方がいいという考えである。

That burden comes largely from the Securities and Exchange Commission, which was created in the wake of the 1929 stock-market crash to protect small investors. But if the move to private markets continues, small investors aren’t going to need much protection any more; they’ll be able to invest in only a relatively handful of companies anyway.
こういった上場会社の負担の多くは1929年の市場暴落の後に、個人投資家を保護するために設立されたSECによるものである。未公開化の動きが続くならば、個人投資家もそれほど保護される必要はなくなってくることになる。彼らが投資できるのは比較的一握りの会社だけになるからだ。

Only the biggest and oldest companies are happy being listed on public market today. As a result, the stock market as a whole increasingly fails to reflect the vibrancy and heterogeneity of the broader economy.
公開企業で上場に満足しているのは最大の企業や最古の企業だけである。その結果、株式市場全体は経済全体の活気や異質性を反映するのに次第に失敗しはじめている。

To invest in younger, smaller companies, you increasingly need to be a member of the ultra-rich elite.
新興の中小企業に投資するためには、超富裕層エリートの仲間になる必要が生まれてきているのである。

At risk, then, is the shareholder democracy that America forged, slowly, over the past 50 years.
危険にさらされているのは過去50年間でゆっくりとアメリカが形成してきた株式民主主義である。

Civilians, rather than plutocrats, controlled corporate America, and that relationship improved standards of living and usually kept the worst of corporate abuses in check.
金権政治家ではなく、市民がアメリカ企業社会を支配していた。そしてこの関係性が生活水準を工場し、常に最悪の企業濫用をチェックしていた。

With America Inc. owned by its citizens, the success of American business translated into large gains in the stock portfolios of anybody who put his savings in the market over most of the postwar period.
市民が所有する、アメリカ株式会社によってアメリカのビジネスの成功は戦後のほとんどの期間、市場に自分の貯蓄を投資した誰もの株式ポートフォリオには大幅な利益に翻訳された。

Today, however, stock markets, once the bedrock of American capitalism, are slowly becoming a noisy sideshow that churns out increasingly meager returns.
しかしながら、今日、かつてはアメリカ資本主義の根幹だった、株式市場はゆるやかに次第に乏しいリターンを生み出す、騒々しい余興になりつつある。

The show still gets lot of attention, but the real business of the global economy is inexorably leaving the stock market—and the vast majority of us—behind.
このショーは未だに多くの関心を得ている。しかしグローバル経済の本当のビジネスは容赦なく株式市場と我々国民のほとんどを置き去りにしてしまっている。

2011年1月18日火曜日

内田樹 レヴィナスによる鎮魂について

もう何度も書いていることだけれど、哲学者の書ものを読むというのは、徹底的に個人的な仕事である。読む者が、そこに傷つきやすく、壊れやすい、しかし熱く息づいている生身を介在させない限り、智者はその叡智を開示してくれない。

レヴィナスは「語られざること」(non-dit)が読み手に開示されるのはどのような場合かについて、次のような印象深いフレーズを書き残している。

「解釈は本質的にこの懇請を含んでいる。この懇請なしでは言明のテクスチャのうちに内在する『語られざること』(
non-dit)はテクストの重みの下に生き絶え、文字のうちに埋没してしまうだろう。懇請は個人から発する。目を見開き、耳をそばだて、解釈すべき章句を含むエクリチュールの全体に注意を向け、同時に実人生に、都市に、街路に、同じだけの注意を向けるような個人から。懇請は、そのかけがえのなさを通じて、そのつど代替不能の意味を記号から引き剥がすことのできる個人から発する。」(Emmanuel Levinas, L'audela du verset,p136)」

レヴィナスの哲学に対する読者の構えについて、これ以上の言葉は不要であろう。

読者に課されているのは、他のどのような読者もそこから読み出さなかったような読みを「記号から引き剥がす」ことである。そのために、読者はテクストに没入すると同時に「都市に、街路に、他の人々に、同じだけの注意を向ける」ことを求められる。

2011年1月12日水曜日

大澤真幸 「正義」を考える

物語とは、「価値ある終結へと関連づけられている出来事の連なり」のことです。 P26


新しい傷(カトリーヌ・マラブー)

「解釈学的内面化hermenuetic internalization)ができないタイプのリスク。

誰かが、リスクと呼べるような、さまざまなひどい出来事に遭遇し、心身に傷を負うとする。ところが、その出来事に遭った被害者が、その傷を、どうしても内面化できない。つまり、それを自分で受け入れることができない。自分の運命だったとか、仕方がないこととして、引き受けることができない。そのようなリスクが、新しい傷です。当事者にとって、いつまでも外在性や疎遠性を保ち続けているリスクが新しい傷です。 P29


精神分析では、解釈されることによって症状が消える。

解釈するということは、そこに一つの物語を与えるということなんですね。

かつてのトラウマが、人生という物語の中で、一つの試練として解釈し直されるわけです。そうすることによって、トラウマに物語の中での意味が与えられる。意味が与えられることにyとて、どんなに悲惨なことでも、耐えたり、受け入れたりすることができるものになる。P30

転移;患者が分析医との関係に、過去の関係を写像し、再現する。


第三の審級としての分析医

新しい傷は、精神分析のような伝統的方法では解消できないタイプのリスク。


近代の初期段階までであれば、さまざまに襲ってくる災難を有意味に解釈するためのフレームワークがあった。


物語化できない他者
物語化によって、その他者性を馴致できないような他者の出現こそが、現代社会の特徴

第2章 正義の諸理論
制度にとっての究極の価値が正義であるとは、ある制度にいろいろな意味で都合がいいことがたくさんあったとしてもそれが正義にかなっていなければその制度はダメだということです。 P36

功利主義
行為の「正解」の程度は、その行為がどれほどの快楽=効用をもたらし得るかで判断できる。

「最大多数の最大幸福」ジェレミー・ベンサム

功利主義というのは、公然と個人の権利とか尊厳を蔑ろにするのです。つまり、功利主義は、誰かの幸福(効用)が増えるのであれば、誰かが犠牲になることを正当化する。

リベラリズム

カント
人間はみんな自由である。自由である前提として人間は理性的である。まさに人間は理性的で自由があるゆえに、それぞれ尊重するに値するというのがカントの考え方の基本的な前提。

普遍化によって矛盾が出てくるような格率は、定言命法にはなりえない。

殺人鬼のパラドックス(ベンジャミン・コンスタン)

コミュニタリアン
両方救えればそれに越したことはないけれど、一人しか救えないときに、自分との間にあるある種の先験的というか、宿命的な連帯を認めることが許されるような他者に対して優先的な責任を負う。コミュニタリアンは、そういうふうに考えるわけです。

コミュニタリアンは、人間は物語の中で生きるということを前提にしている。その物語は、共同体の宿命的な連帯と深く結びついている。人間は物語の中で位置を持ち、それにコミットし、その物語に対して深い愛着(アタッチメント)を持っている。そのことを前提にして、いろいろな道徳的責務ができている。

2011年1月2日日曜日

人材採用の仕方

http://blog.pmarca.com/
Primer for Hiring Execs
Andreessen Horowitz prefers funding companies whose CEO is a co-founder.
CEOが共同創業者である企業に投資を選好する。

We also prefer founders who are technical.
創業者が技術者であることも望ましい。

Put the two together, and you often have a CEO who has to hire executives into roles (e.g., marketing, sales, customer support, finance )she has never done before.
二つを合わせると、自分がかつてやったことのない役割(マーケッティング、販売、カスタマーサポート、財務)を果たす経営陣を雇わねばならないCEOが存在することになる。

How in the world do you interview and recruit someone for a role you’ve never done before? Start with Ben’s latest blog post “Hiring Executives: If You’ve Never Done the Job, How Do You Hire Someone Good?“.

http://bhorowitz.com/2010/10/14/hiring-executives-if-you%E2%80%99ve-never-done-the-job-how-do-you-hire-somebody-good/
Hiring Executives; If you’ve never done the job, how do you hire somebody good?

The biggest difference between being a great functional manager and being a great general manager—and particularly a great CEO—is that as a general manager, you must hire and manage people who are far more competent at their jobs than you would be at their jobs. In fact, often you will have to hire and manage people to do jobs that you never done. How many CEOs have been head of HR, Engineering, Sales, Marketing, Finance and Legal? Probably none.
自分のやったことのない職種の部下を雇うにはどうしたらいいのか。

So, with no experience, how do you hire someone good?

Step 1; Know what you want.
ステップ1;自分が何を求めているのかを明らかにする。

Step 1 is definitely the most important step in the process and also the one that gets skipped most often.
ステップ1は一番大切だが、往々にして見過ごされがちな点だ。

As the great self-help coach Tony Robbins says; “if you don’t know what you want, the chances that you’ll get it are extremely low.” If you have never done the job, how do you know what to want?

そもそも何をしたいかがわからなければ、成功などするはずがない。でも、かつて経験したことがない職種で何をしたいかなどどうやったらわかるのか。

First, you must realize how ignorant you are and resist the temptation to educate yourself simply by interviewing candidates.
第一に、自分がどれほど無知かを自覚し、候補をインタビューする中で学ぼうとする誘惑に抵抗しなければならない。

While the interview process can be highly educational, using that as the sole information source is extremely dangerous.
インタビューでは多くを学ぶことができるが、それを唯一の情報源にするのは極めて危険である。

In particular, doing so will make you susceptible to the following traps;
・ Hiring on look and feel—It sounds silly that anyone would hire an executive based on the way they look and sound in an interview, but in my experience look and feel is the top criteria for most executives searches. When you combine a CEO that doesn’t know what she wants and a board of directors that hasn’t thought much about the hire, what do you think the criteria are?
・ みかけと印象で雇用する。そんなわけないと思うかも知れないが、世の中のエクゼクティブサーチ会社は候補者をこの基準で取り揃えているということに注意しなければならない。
・ Looking for someone out of central casting—This is the moral equivalent of looking for the Platonic Form of a head of sales. You imagine what the perfect sales executive might be like then you attempt to match real-world candidates to your model. This is a really bad idea for several reasons. First, you are not hiring an abstract executive to work at an arbitrary company. You must hire the right person for your company at this particular point in time. The head of sales at Oracle in 2010 would likely have failed in 1989. The VP of engineering at Apple might be exactly the wrong choice for FourSquare. The details and the specifics matter. Second, your imaginary model is almost certainly wrong. What is your basis for creating this model? Finally, it will be incredibly difficult to educate an interview team on such an abstract set of criteria. As a result, everybody will be looking for something diffirent.
・ 理想型を追い求める。あるべき役割に現実の候補をあてはめようとしてもうまくいかない。特定の時期に、特定の会社にとって、特定の役割を果たすべく、人を採用するのであり、抽象的な理想型を雇うのではない。2010年のオラクルの営業のヘッドは、1989年には役にたたない可能性が高い。アップルのエンジニアリングVPは、FourSquareには不適切なはずだ。詳細が重要なのである。第二に、理想型は必ず間違っているからだ。最後に、インタビューチームに採用方針を理解させるのが困難で、皆が少しずつ違った候補を探してくるはめになる。
・ Valuing lack of weakness rather than strength—The more experience you have, the more you realize that there is something seriously wrong with every employee in your company (including you). Literally, nobody is perfect. As a result, it is imperative that you hire for strength rather than lack of weakness. Everybody has weaknesses; they are just easier to find in some people. Hiring the lack of weakness just means that you’ll optimize for plesantness.愉快Rather, you must figure out the strengths you require and find someone who is world class in those areas despite their weakness in other, less important domains.
・ 弱さがないことを評価しすぎてはいけない。どんな人間でも必ず強さと弱さがある。弱さがないことを目指して採用すべきではない。特定の分野での圧倒的な強さのある人間を、他の、あまり重要ではない分野での弱さよりも重視して採用すべきである。

The very best way to know what you want is to ac in the role.
何が欲しいかはやって見るのが一番だ。

Not just in title, but in real action—run the team meeting, hold 1;1s with the staff, set objectives, etc..
タイトルだけじゃなくて、本当にやってみることだ。チームミーティングを主催し、スタッフインタビューを行い、目標を設定する等。

In my career, I’ve been acting VP of HR, CFO, and VP of Sales.
私は、人事のVP,CFO, 営業担当のVPなどの経験がある。
Often CEOs resist acting in functional roles, because they worry that they lack the appropriate knowledge.
CEOは、機能的役割を果たすことに抵抗するものである。理由は、適切な知識が欠落していることを懸念してのことである。

This worry is precisely why you should act—to get the appropriate knowledge.
この懸念があるからこそ、適切な知識を得るためには、実際にやってみるべきなのである。

In fact, acting is really the only way to get all of the knowledge that you need to make the hire, because you are looking for the right executive for your company today not a generic executive.
実際、実経験に勝るものはない。

In addition to acting in the role, it helps greatly to bring in domain experts.
実経験を積むだけではなく、その分野の専門家を引き入れるのも役に立つ。

Figure out which of those strengths most directly match the needs of your company.
どの強さが自分の会社のニーズに最も直接的にマッチしているのかを考えねばならないのだ。

If possible, include the domain expert in the interview process.
可能であれば、インタビュープロセスにその分野の専門家を入れる方がいい。

Finally, be clear in your own mind on your expectations for this person upon joining your company.
最後に、候補者が会社に入ったときに何を期待するかを明らかにしておくことである。

What will this person do in the first 30 days?
この人が最初の30日間で何をするかである。

What do you expect their motivation to be for joining?
参加するモチベーションとして何を期待するか。

Will they instantly have 10 reqs to hire or with they have 1?

Step2;Run a process that figures out the right match
適切なマッチングを考えるプロセスを行う

In order to find the right executive, you must now take the knowledge that you have gathered and translate it into a process that yields the right candidate.
適切な経営層を見つけるためには、適切な候補者を生み出すためのプロセスのために集められ翻訳される知識を得なければならない。

Here is the process that I like to use.
以下に私が好むプロセスをあげる。

Write down the strengths you want and the weakness that you are willing to tolerate
望む強さと許せる弱さを列挙する。
The first step is to write down what you want.
先ず、自分が望むものを書き出すのが初めだ。

In order to ensure completeness, I find it useful to include criteria from the following sub-divisions when hiring executives;
完璧を求めるためには、経営層を雇用するときにサブとなる部門からの基準を含めるのは有用である。
・ Will the executive be world class at running the function?
・ 経営層は特定の機能を運営する上で世界クラスか?
・ Is the executive outstanding operationally?
・ その経営者は業務運営面で傑出しているか。
・ Will the executive make a major contribution to the strategic direction of the company? This is the “are they smart enough?” criteria.
・ その経営者は会社の戦略的な方向性に大きな貢献をするか。十分に賢明かという基準である。
・ Will the executive be an effective member of the team? Effective is the key word. It’s possible for an executive to be well liked and totally ineffective with respect to the other members of the team. It’s also possible for an executive to be highly effective and profoundly influential while being totally despised. The latter is far better.
・ その経営メンバーはメンバーとして有効か。有効というのがキーワードである。ある経営メンバーが人としてすかれるが、チームの他のメンバーと比較して、有効ではない可能性もある。あるメンバーがかなり有効でかなり影響力があるが、チームからは嫌われる可能性もある。後者の方がはるかに良い。

These functions do not carry equal weight for all positions.
こういった機能は全てのポジションに対して同じウェイトを持ちはしない。

Make sure that you balance them appropriately.
適切なバランスを取る必要がある。

Generally, operational excellence is far more important for a VP of Engineering or a VP of Sales than for VP of Marketing or CFO.
一般的に、業務運営上の一流さが、CFO,やマーケッティングのVPよりもエンジニアリングや販売のVPにとって重要である。

Develop questions that test for the criteria
基準をテストする質問を構築する。

This step is important even if you never ask the candidate any of the pre-prepared questions.
このステップは、予め用意した質問を候補に尋ねない場合には重要である。

By writing down questions that test for what you want, you will get to a level of specificity that will be extremely difficult to achieve otherwise.
あなたが望むものに対するテストをする質問を書き出すことによって、それ以外の方法で達成するのがきわめて困難な具体性の水準を得ることができる。

As examples, below I include questions that I wrote for running the enterprise sales function and operational excellence.
例として、大企業向け営業機能を有能に運営することの基準についての質問を含めている。

Questions for head of enterprise sales force
大企業向け営業部隊のヘッドに対する質問

Is she smart enough?
十分に賢いか。

・ Can she effectively pitch me on her current company?
・ 現在勤めている企業について効果的なセールスピッチが伝えら得るか。
・ How articulate is she on the company and market opportunity that you are presenting to her now?
・ 候補者がどれだけ、あなたが説明している企業と市場チャンスについて明晰に理解しているか。
・ Will she be able to contribute to the strategic direction of your company in a meaningful way?
・ 候補者は意味のある形であなたの会社の戦略的方向性に貢献できるだろうか。

Does she know how to hire sales people?
候補者はどうやって営業担当を雇うかを知っているか。
・ What is her profile?
・ 候補者のプロフィールは
・ Ask her to describe a recent bad hire
・ 最近の雇用での失敗について訊ねよ
・ How does she find top talent?
・ どのように優秀な人材を見つけるか
・ What percentage of her time is spent recruiting?
・ 自分の時間のどのくらいをリクルートにあてているか。
・ How does she test for the characteristics she wants with her interview process?
・ インタービューの中で、自分が求める性質を候補者が持つかどうかをどうやってテストしているか。
・ How many of her current people want to sign up? Can you reference them and validate that?
・ 現在採用しているスタッフの何人が、あなたに参加するか。レファレンスをとって確認することはできるか。
・ Could you pass her sales interview test? Should you be able to pass?
・ 候補者のインタビューテストを貴方は合格できるか。
・ Does she know how to hire sales managers?
・ 営業部長の雇い方を知っているか。
・ Can she define the job?
・ 候補者は職を定義できるか。
・ Can she test for the skills?
・ 候補者はそのスキルのテストができるか。

Is she systematic and comprehensive on how she thinks about sales process?
候補者は販売プロセスについてどう考えるかについて体系的且包括的か。
・ Does she understand the business and the technical sales processes?
・ 候補者は事業を理解し、技術的販売のプロセスを理解しているか。
・ Does she understand benchmarking, lockout documents, POCs, demos?
・ 候補者はベンチマーキング、ロックアウトドキュメント、POC,デモを理解しているか。
・ Does she know how to train people to become competent in the process?
・ 候補者は人々がこのプロセスの中で有能になるように訓練するにはどうすればいいかを知っているか。
・ Can she enforce the process?
・ このプロセスを強制できるか。
・ What is her expectation of her team’s use of the CRM tools?
・ 自分のチームがCRMツールを使うことに関して、どのように期待しているか。

How good is her sales training program?
候補者の営業トレーニングプログラムはどの程度の水準か。
・ How much process training vs product training? Can she describe it in detail?
・ プロセス訓練とプロダクト訓練の配分は。それを詳細に説明できるか。
・ Does she have materials?
・ 資料は持っているか。

How effective is her sales rep evaluation model?
どれだけ効果的な販売担当者評価モデルを持っているか。
・ Can she get beyond basic performance?
・ 基本的パフォーマンスを超えることができるか。
・ Can she describe the difference between a transactional rep and an enterprise rep in a way that teaches you something.?]
・ 取引実行型担当者と大企業担当者の違いを説明できるか。それで何か学ぶところがあったか。

Does she understand the ins and outs of setting up a comp plan?
報酬プランの設定の詳細を理解しているか。
・ Accelerators, spiffs特別報奨金, etc,etc.

Does she know how to do big deals?
大型取引をどうやるかを知っているか。
・ Has she made existing deals much larger? Will her people be able to describe that? Has she accelerated the close of a large deal?
・ 既存の取引をより大きなものにしてきたか。候補者のスタッフをどうやったかを説明できるか。大規模取引のクロージングを加速してきたか。
・ Does she have customers that will reference this?
・ このことについてのレファレンスに応じてくる顧客はいるか。

Does she understand marketing?
候補者はマーケッティングを理解しているか。
・ Can she articulate the differences between brand marketing, lead generation, and sales force enablement without prompting?
・ ブランドマーケッティング、リード作り、営業部門強化の違いについてはっきりと説明できるか。

Does she understand channels?
チャネルについて理解しているか。
・ Does she really understand channel conflict and incentives?
・ チャネル間の対立やインセンティブについて本当に理解しているか。

Is she intense enough?
候補者には十分な激しさがあるか。
・ Will the rep in Wisconsin wake up at 5 am and hit the phones or will they wake up at noon and have lunch?
・ ウィスコンシンの担当者は5時におきてすぐに電話をするのかそれとも、12時ぐらいに起きて、ランチを取るのか。

Can she run international?
海外での経営が可能か。

Is she totally plugged into the industry, how quickly can she diagnose?
この業界について完全に内部者となっているか。どれだけ迅速に分析ができるか。
・ Does she know your competition?
・ 競合他社について知っているか。
・ Does she know what deals you are in right now?
・ 今、この会社がどういう取引をしているか知っているか。
・ Has she mapped your organization?
・ 候補者はこの会社の組織図がわかっているか。

Operational excellence questions
事業面での優秀さについての質問

Managing direct reports
直属の部下の管理
・ What do you look for in the people working for you?
・ 自分の部下に何を求めるか。
・ How do you figure that out in the interview process?
・ インタビュープロセスではそれをどのように考えるか。
・ How do you train them for success?
・ 部下を成功させるのにどのように教育するか。
・ What is your process for evaluating them?
・ 部下をどのように評価しているか。

Decision making
意思決定
・ What methods do you use to get the information that you need in order to make decisions?
・ 意思決定をするために、必要とする情報を得るためにどのような方法を用いているか。
・ How do you make decisions (what is the process)?
・ どのように意思決定を行うか。(プロセスはどうなっているか)
・ How do you run your staff meeting? What is the agenda?
・ スタッフミーティングをどう運営しているか。アジェンダは何か。
・ How do you manage actions and promises
・ 活動や公約をどのように管理するか。
・ How do you systematically get your knowledge?
・ どのように体系的に知識を得ているか。
―組織情報
―顧客情報
―市場情報

Core management processes—please describe how you’ve designed these and why?
コアとなるマネジメントプロセス;それをどのように設計したか、なぜかを説明する。
・ Interview
・ Performance management
・ Employee integration
・ Strategic planning

Metric design
測定基準のデザイン
・ Describe the key leading and lagging indicators for your organization
・ 自分の組織の、主要な先行指標、遅行指標を説明する。
・ Are they appropriately paired? E,g. do you value time, but not quality?
・ 適切なペアになっているか。時間を評価しているか、クオリティを評価していないか。
・ Are there potentially negative side effects?
・ 潜在的にネガティブな副次効果はないか。
・ What was the process that you used to design them?
・ 設計するためのプロセスは何か。

Organizational design
組織設計
・ Describe your current organizational design
・ 現状の組織デザインを説明する
・ What are the strengths and weaknesses?
・ 何が強さで何が弱さか。
・ Why?
・ なぜか
・ Why did you opt for those strengths and weaknesses (why were the strengths more important)?
・ 強みと弱みを選んだのはなぜか(なぜその強さが重要だったのか)
・ What are the conflicts? How do they get resolved?
・ 対立は何か。そのように解決されているか。

Confrontation
対立
・ If your best executive asks you for more territory, how do you handle it?
・ もっとも有能な経営メンバーがより多くのテリトリーを要求した場合、どのように処理するか。

Describe both your process for promotion and firing
昇進と解雇のプロセスの両方を説明する。
・ How do you deal with chronic bad behavior from a top performer?
・ トップパフォーマーの慢性的な悪い行動に対してどのように対処するか。

Less tangible
より見えにくい点
・ Does she think systematically or one off?
・ 候補者は体系的に考えるか、その場その場の思考か。
・ Would I want to work for her?
・ この候補者の下で働きたいか。
・ Is she totally honest or is she bull shitty?
・ 完全に正直か、大言壮語まじりか。
・ Does she ask me spontaneous incisive questions or only pre-prepared ones?
・ 自発的に鋭い質問を自分に対してしたか。それともあらかじめ用意したようなものばかりだったか。
・ Can she handle diverse communication styles?
・ 多様なコミュニケーションのスタイルを処理できるか。
・ Is she incredibly articulate?
・ 信じられないくらい明晰か。
・ Has she done her homework on the company?
・ あなたの会社について予習してきていたか。

Assemble an appropriate interview team and conduct the interviews
適切なインタビューチームを組成し、インタビューを行う。
The next step is to assemble the interview team.
次のステップはインタビューチームの組成である。
In assembling the team, you should keep two questions in mind;
チームを組成する際には、二つの点を念頭に置く必要がある。
1. Who will best help you figure out whether or not the candidate meets the criteria? These may be internal or external people. They can be board member, other executives or just experts.
候補者が基準を満たしているかどうかを判断するのにもっともうまく支援しくれるのは誰か。内外双方がありうる。取締役か、経営メンバーあるいは専門家かもしれない。

2.Who do you need to support the decision once the executive is on board? This group is just as important as the first. No matter how great an executive is, they will have trouble succeeding if the people around them sabotage everything they do. The best way to avoid that is to understand any potential issues before the person I hired.
経営メンバーが参加したら意思決定をどのように支持する必要があるか。このグループは最初よりも重要である。経営メンバーがどれだけ優秀かにかかわらず、彼らのまわりの人々がすべてをサボタージュするならば、成功は覚束ない。これを回避する最高の方法は、その人を雇用する前に、潜在的な問題を理解することである。

Clearly, some people will be in both groups 1 and 2.
明らかにこのグループ1と2に該当する人もいる。

The options of both groups will be very important group 1 will help you determine the best candidate and group 2 will help you gauge how easily each candidate will integrate into your company. Generally, it’s best to have group 2 interview finalist candidates only.
両方のグループの意見はとても重要である。グループ1は最高の候補を決定するのを支援し、グループ2はその候補がどれだけ容易に企業に統合されていくかを測定することを助けてくれるのである。一般的に、グループ2のインタビューは最終候補だけにするのがいいだろう。

Next, assign specific questions to interview based on their talents. Specifically, make sure that the interviewer who asks the questions deeply understands what a good answer will sound like.
次に、才能に基づいてインタビューへの個別の質問を付与する。特に、インタビューをする人が良い答えはどのようなものかを深く理解する必要があるのだ。

As you conduct the interviews, be sure to discuss each interview with the interviewer. Use this time to drive to a common understand of the criteria, so that you will get the best information possible.

Backdoor and front door references
For the final candidates, it’s critically important that the CEO conduct the reference checks herself. The references need to be checked against the same hiring criteria that you tested for during the interview process. Backdoor reference checks (checks from people who know the candidate, but were not referred by the candidate) can be an extremely useful way to get an unbiased view. However, do not discount the front door references. While they clearly have committed to giving a positive reference (or they wouldn’t be on the list), you are not looking for positive or negative with them. You are looking for fit with your criteria. Often, the front door references will know the candidate best and will be quite helpful in this respect.

Step 3: Make a lonely decision
Despite many people being involved in the process, the ultimate decision should be made solo. Only the CEO has comprehensive knowledge of the criteria, the rationale for the criteria, all of the feedback from interviewers and references and the relative importance of the various stakeholders. Consensus decisions about executives almost always sway the process away from strength and towards lack of weakness. It’s a lonely job, but somebody has got to do i

2010年9月2日木曜日

転換社債VS株式 フレッド・ウィルソン

Some Thoughts On Convertible Debt
転換社債について
Seth Levine has a long and thoughtful post on convertible debt vs equity. If you are an entrepreneur or active in the angel/seed sector, you should read it. He wrote it in response to Paul Graham's tweet that said:
ポール・グラハムのツイートに対して、Seth Levineが書いたCB対株式についてのコメント。

Convertible notes have won. Every investment so far in this YC batch (and there have been a lot) has been done on a convertible note.
CBの勝ち。YCBatchのファイナンスはCB中心。

I am sure that Paul was talking about angel/seed rounds and was not suggesting that convertible debt has "won" as the preferred financing structure in the venture capital business. But since our firm does participate in select angel/seed rounds, this was interesting to me.


I have been doing venture capital for 25 years now and have also done many angel investments personally along with my wife. We have never done a convertible debt round. That run may soon come to an end if Paul is right. Maybe I will have to join the convertible debt parade.

But I don't like convertible debt for a host of reasons.
ぼくはいくつかの理由でCBが嫌い。

It used to be that convertible debt was a lot easier and cheaper to do legally. But with non-negotiated "light series A docs" from most top venture law firms out there, you can do a Series A Preferred for less than $5000. And these light Series A documents focus on economics not control and governance, just like converts do. So to me that is not a valid argument for doing convertible debt anymore.

CBは昔は優先株に比べると、簡単で、法的手続きも安上がりだった。しかし弁護士事務所が交渉なしの優先株に関する簡便なドキュメントを可能にしたので、この差がなくなった。

It still is true that negotiating valuation can be very tricky in an angel round and it may be better to defer that negotiation until the next round. That is what convertible debt does. But I am a sophisticated investor. I do this for a living. I can negotiate a fair price with an entrepreneur in five minutes and have done that for a seed/angel round many times. So I don't think that argument applies to an investment I am making either.

実際、バリュエーション交渉というのはエンジェルラウンドでは厄介なものなので、この交渉は次のラウンドに延期した方がいい。しかし、ぼくは投資が本職なので、こんなことはそんなに難しくないので、自分にはあてはまらない。

Fans of convertible debt argue that debt with a valuation cap is no different than a priced equity round. That is true if the valuation cap is the same as the valuation that the investors would pay if it was equity. But if that is the case, then the entrepreneur is getting screwed. He or she is agreeing to either take the valuation that would have been offered, or something lower if the next round is lower. That is not a good deal for the entrepreneur.
CB好きは、バリュエーションキャップのついた債券はエクイティラウンドとなんの違いもないと主張する。しかしCBの投資家がエクイティ投資と同じバリュエーションキャップならばその通りである。そうだとすれば、起業家が出し抜かれたことになる。

In truth. there are many convertible debt deals getting done right now with very high valuation caps and some with no valuation caps. In that instance, we are simply seeing the impact of limited supply vs excess demand come into play in the angle/seed market and we need to call this what it is - a price increase.

And that is what I think Paul is actually seeing. He has done such a good job with Y Combinator and his leadership and vision has inspired a wave of seed and angel investment in web services that is unprecedented. That wave is creating price expansion. It is a seller's market and will be for some time to come. And then things will settle down. And when they do, I think we will see the angel/seed market return to a more normal place. A place where priced equity deals between entrepreneurs and sophisticated investors is the norm.

Of course, I could be wrong about all of this. It could be wishful thinking so that I don't have to eat my words and do a convert. That may well happen. Maybe very soon. Maybe my next deal. But I won't be happy about it.

2010年6月7日月曜日

浜口内閣前の歴代内閣はなぜ金解禁に取り組まなかったのか

城山三郎「男子の本懐」(新潮文庫)P41

国の内外からそれほど求められているというのに、歴代内閣は、なぜ金解禁に取り組まなかったのか。

ひとつには、準備の問題がある。

解禁そのものは、大蔵省令一本でできるが、為替相場が低落したままの状態で解禁すれば、法定相場との間に大きな差が出るため、たとえば、手持ちのある輸入業者は大打撃を受けるし、輸出業者は外貨建て値の急騰で輸出ができなくなる。一方、為替差益を狙っての投機も横行する。

このため、解禁に先立って、為替相場をできるだけ回復させ、法定レートに近づけておかねばならず、財政を中心に強力な緊縮政策を行って、国内物価を引下げておく必要がある。

また、一時的に金の流出が予想されるので、金準備をふやし、外国からの信用供与もとりつけておかねばならない。

これら諸条件の整備と、解禁のタイミング決定は、浜口のいうように、尋常一様な財政家の手に負える仕事ではなかった。

次に首尾よく金解禁が実現されたとしても入超続きの日本では、金の流出が続き、通貨は収縮せざるを得ない。当然のことだが、不景気がさらに進行することになる。大戦景気にならされ、膨張したままの企業や家計が耐乏生活を強いられるわけで、水ぶくれした体質が改善され、国際競争力がつくまでは、ある程度の時間がかかる。

すでに長い経済の低迷があり、金解禁を望む多くのひとびとは、即効薬を期待している。だが、金解禁は即効薬ではなく、苦しみながら、にがい薬を飲み続けることである。焦立ちのあまり局面の転換だけを求めていたひとびとをはじめとして、民衆の多くが辛抱しきれなくなる。健康体になるために、なおしばらくの不景気が必要だ、という理屈も通らなくなり、やがて為政者をうらむようになる。

政治家の売り物となるのは、常に好景気である。あと先を考えず、景気だけをばらまくのがいい。民衆の多くは、国を憂えるよりも、目先の不景気をもたらしたひとを憎む。古来、「デフレ政策を行って、命を全うした政治家は居ない」といわれるほどである。容易ならぬ覚悟が必要であった。

それに、軍部および右翼筋からの反発も予想された。

緊縮財政では、まず焦点となるのが、陸海軍費の節約である。すでに陸軍においては師団の削減が行われており、かなりの不満が出ている。

海軍についても、先のワシントン会議での主力艦の削減に続いて、今回はロンドン会議で、補助艦艇の削減をとりきめる。こうした世界的な軍縮の流れは、英米優位の支配体制を許すものだとして、一部には強い反対がある。

だが、軍縮は推進しなければならない。それは、金解禁への重要な前提でもある。そして、金本位制への復帰によって軍部の膨張を許さぬ構造を作り上げようー浜口たちのそうした構想を、軍や右翼関係者が見逃すとも思えない。彼等が単独で、あるいは、不景気をうらむ民衆にまぎれて襲いかかってくることも、当然、予想されなければならなかった。

金解禁断行は、文字通り、進んで「行路難を背負う」ことであった。「君国のため命を捧げよう」という男二人のひそかな盟約、決して絵空事ではなかった。

井上準之助が金解禁にこだわったのはなぜか

城山三郎「男子の本懐」(新潮文庫) P37
なぜ、それほどに金解禁にこだわるのか。

金解禁とは、金の輸出禁止措置を解除し、金の国外流出を許す、ということである。

もともと世界各国とも、金本位制をとり、金の自由な動きを認めていたが、第一次大戦の勃発により、経済がかつてない混乱に陥った際、先行きの不安に備え、各国はとりあえず金を自国内に温存しようとして、輸出禁止を行った。

日本も、1917年(大正六年)九月、寺内内閣のとき、大蔵省令によって、金輸出を禁止した。非常事態に際しての非常事態であった。

金本位制度の下では、各国とも、紙幣は兌換券であり、中央銀行でいつでも表示の金額に代えることができるし、その金額の金含有量によって各国間の交換比率(為替レート)が法定化される。

ある国で輸出超過が続けば、決済代金として、外国から金が流れこむ。その結果、その国の金の保有量がふえ、これに比例して自動的に通貨が増発される。

このため、今度は、国内物価が騰貴するようになり、輸出は前ほど伸びなくなり逆に外国品の輸入がふえて、輸出入のバランスが回復する。

逆に、入朝続きで、国際収支が赤字のときは、その支払いのため、金が海外へ出て行く、この金保有量の減少に応じて、中央銀行は通貨の発行を減らすことになるので、デフレが起き、物価が下がる。このため、商品に国際競争力が出て、輸出が伸び、一方、外国品が割高になるため、輸入が減る。国際収支は自動的に改善に向うわけである。

各国が金本位制度をとれば、各国経済が世界経済と有機的に結ばれ、国内物価と国際物価が連動して、自動的に国際経済のバランスもとれる。

金本位制は火の利用と並ぶ人類の英知だ、とたたえる声もあるほどであった。

非常事態が去れば、非常手段をやめるのが当然である。

パリ講和会議のはじまった1919年、アメリカは早々にこの非常手段を廃止し、金本位制に戻った。翌年には、スウェーデン、イギリス、オランダと、金解禁する国が続いた。

1922年(大正11年)ゼノアで開かれた国際会議では、各国とも解禁を急ぎ、金本位に復帰するよう決議が出された。

各国は、この決議に従って、続々と解禁。1928年(昭和3年)のフランスの解禁によって、めぼしい国はほとんど金本位制へと戻った。残っているのは、日本とスペインだけという始末。

(略)

事実、金本位制という安定装置を持たぬ日本経済は、「通貨不安定」にゆさぶられていた。為替相場は、国内外の思惑などによって乱高下を続ける。このため、為替差益を狙う投機筋が暗躍。その一方で、地道に生産や貿易に従事する者は痛手を受け、あるいは先行き不安で立ち往生といった状態。為替差損のため倒産するところもあれば、差損をおそれて活動を縮小する企業もある。経済は低迷を続けるばかりであった。

このため金解禁に活路を求める声が、金融界・産業界にひろがっていた。

日露戦争の戦費なとして借りた2億3000万円の英貨公債が昭和5年いっぱいで期限が来る。償還能力のない日本としては、借り換えをたのむ他ないが、「通貨不安定国」では、それも交渉できない心配があった。

さらに、金解禁には、いまひとつ、秘めた思いがあった。軍部の膨張を抑制することである。

この当時は軍縮の時代だが、しかし、一皮剥げば、その下には、張作霖暗殺事件に見るように、軍部の拡張主義が息づいている。仮に、その軍部がおどり出し、軍事費を増大させようとしても、金本位制である限りは、通貨をむやみ勝手に増発することはできない。資金の面から、自動的にブレーキがかかってしまう。

井上は、親しい日銀の後輩に漏らした。
「いまの陸軍は、心配でならん。できれば、摩擦なしにメカニズムで軍部をチェックできるようにしておきた」と。