2008年3月24日月曜日

基軸通貨としてのドルに対する懸念が高まっている。ファイナンシャルタイムスのWolfgang Munchauが、ドルからユーロへというコラムを書いている。



ChinnとFrankelという二人の米国経済学者による、ドルが今後10年から15年の間に、世界最大の準備通貨(中央銀行が貿易用の通貨として保有する通貨)のポジションから滑り落ちるというシミュレーションを引用している。



当然、貿易のための主要通貨という役割には、制度としての慣性もあるので、実際の国力の弱体化とリアルタイムで進行するわけではなく、当然、遅れがある。



たとえば、基軸通貨としてのスターリングの役割は、帝国としての英国の力が落ちてしまった後も、第2次世界大戦前後までは継続していた。1870年代には米国経済が英国経済を完全に凌駕していたにもかかわらずである。ドルの興隆を遅らせた一つの要素は、1913年の連邦準備制度の設立まで、米国には先進的な金融部門が存在しなかったことである。グローバルな準備通貨であるためには、いくつもの必要条件がある。たとえば、経済規模、国際貿易におけるその国のシェア、その国の金融市場の深さなどである。



ChinnとFrankelが米ドルの国際的役割の低下を主張するには理由が2つあるという。



第一に、長期的なドル安傾向と、経常収支赤字の継続である。当然、帝国的拡大の無理が生じるという要素も無視できない。



第二番目の理由は、ドルに対する対抗馬が現れることである。一時、噂された、円やドイツマルクにはその可能性はない。この両通貨は、先ほどの国内経済の規模や、貿易におけるシェアや、金融市場の発達度合いなどの必要条件を充たさないからである。しかし、ユーロはこの候補としての条件を備えているように思われる。ユーロゾーン経済は米国経済に匹敵し、今後凌駕する可能性を秘めている。さらに、ロンドンは、フランクフルトからユーロゾーンの金融センターの役割を実質的に奪っている。英国がユーロを採用していないことは、この役割とは関係がない。さらにユーロゾーンの債券市場はいまや米国市場と同じ深さと流動性を有している。



そして最近のFedの無謀ともいえるような金融政策が、ドル安や、インフレ期待の上昇を招き、現在の不況が終焉すると、インフレが起こると思われる。将来のインフレは、ドルのグローバルな役割に対するボディブローとなるだろう。



米国のインフレが与える直接的な影響は、発展途上国で自国通貨をドルに連動させている国が、ドルペッグの維持が困難になることである。簡単にドルペッグを外しはしないが、ドル防衛のために生じる国内インフレ懸念に各国ともに耐えられなくなるのである。ドル連動をやめたときに、その政府は、準備通貨ポートフォリオのリバランスも必然的に行うことになる。

また、米国の信用危機の結果、一世を風靡した、アングロサクソン型トランザクション型資本主義から、ユーロゾーンのリレーションシップ型ファイアンスへの移行が起こるとすれば、基軸通貨としてのシフトを後押しすることになるかもしれない。

現在はというと、ユーロは世界の外貨準備の4分の1程度であり、ドルのシェアはいまだ3分の2と圧倒的である。慣性というものが当面支配するというのも現実だ。

ただ、ドルに有利に働いたネットワーク外部性は、同様にユーロの追い風ともなりうるのだ。

基軸通貨としての役割をドルが失うことの意味は甚大である。先ず、米国は、自国の赤字を簡単にファイナンスするという大いなる特権を失うことになる。

こういった構造変化を止めることは政治にはできない。米国の政治家のなかで、その帰結の深刻さを本当の意味で理解しているものはいないようだ。ただユーロに対する責任を持たねばならないヨーロッパの政治的リーダーたちも世界の基軸通貨を担う重さを理解しているようにも思えない。

基軸通貨の変動という地政学的構造変化の中で、今後10年間、日本及びアジアの地政学的、金融的ポジショニングについて鋭敏に考えねばならず、そこに、日本のチャンスがあるはずなのに、その国の中央銀行の総裁はまだ空席のままである。なんとかしなくては。


2007年7月10日火曜日

ブルドッグソース高裁判決

ブルドッグソースの取締役会が、スティールパートナーズという投資ファンドの敵対的買収に対して、装備した新株予約権を使った、買収防衛策に対するファンド側の差し止め請求に対して、東京地裁に続いて、東京高裁も買収防衛策を妥当とする判断を行った。手法は、すべての株主に対して新株予約権を与えるが、スティールだけは、予約権の行使ができず、その代わりに会社が予約権自体を適正価格で現金買取をするということらしい。これで、スティールパートナーの10%持分が3%まで希薄化するので、影響力が失われ、経営陣は安泰という話だ。

法律の専門家じゃないので、判決の綾まではわからないが、スティールは濫用的買収者だという判断まで踏み込んだ、素人目には随分踏み込んだ判決だなという気がする。英字新聞のなかでは、Law-abiding(遵法の)投資家に対する大きな痛手と報じているものもあった。

スティールが買収後の事業計画をまじめに提示していないことや、判断に必要な十分な機会を投資家に与えていないことや、過去に、結果を見ると、買戻しというグリーンメール的な実績が多いということで、実質的な判断をしている。

ただこの心証形成の上で、マスコミで無防備なほどに報じられたファンドのトップの「小憎らしい」イメージがかなり大きく影響しているような気もする。どちらかといえば、子供っぽく見える表情で、日本の経営者をEducateするとぶっきらぼうに言うシーンが何度もテレビで報じられていた。

今回の判決が、日本の買収市場にどのような影響を及ぼすかはいまだよくわからないが、外資系ファンドのアプローチには大きな影響を与えるし、そのあたりで、仲介者のビジネスがまた増えるのかもしれないなと思った。